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京都地方裁判所 昭和57年(行ウ)17号 判決

京都府亀岡市東別院町小泉垣内一番地

原告

藤木石蔵

右訴訟代理人弁護士

高田良繭

同府船井郡園部町小山東町溝辺二一番地の二

被告

園部税務署長

菊地和夫

右指定代理人

井口博

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が昭和五六年二月二六日、原告の昭和五二年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、総所得金額二一二万四二三八円を超える部分を、同日、原告の昭和五三年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、総所得金額二三〇万六八六〇円を超える部分を、同日、原告の昭和五四年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、総所得金額三〇五万七二八〇円を超える部分を、それぞれ取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二請求原因

一  本件処分の経緯等

原告は、縫製工場を有し、受注先から生地の支給を受けて、養生シート、野積用シート、自動車用シート等の受託加工を行うと共に、自らも生地を仕入れてシートの製造販売を行つているいわゆる白色申告者納税者である。原告の昭和五二年ないし昭和五四年の各年分の所得税について、原告のした確定申告、これよ対する被告の各更正及び過少申告加算税決定(以下、右各更正を「本件更正」と、右各過少申告加算税決定を「本件各決定」という。)、原告の異議申立に対する決定並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別紙1ないし3のとおりである。

二  本件処分の違法事由

1  被告は、本件各更正の調査につき、原告が調査理由の開示を求めたのに、調査理由の開示を行わず、違法の調査に基づき本件各更正を行つた。

2  本件各更正のうち、各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものである。

3  右1、2により、本件各更正は違法であり、したがつて、また、本件各更正を前提としてされた本件各決定も違法である。

よつて、本件各更正及び本件各決定の取消しを求める。

第三請求原因に対する認否および被告の主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

二  被告の主張

1  本件各更正の調査の適法性

(一) 被告は原告の本件各係争年分の所得税調査のため、昭和五五年七月一七日以降、部下職員である井上康之係官を原告の事業所に臨場させ、調査を行わせた。

井上係官は、右同日原告の事業所に臨場し、原告及び実質的な事業の主宰者である、原告の長男藤木政明(事業専従者でもある。以下、「長男政明」という。)に面接し、原告の本件各係争年分の所得税の調査に来た旨を告げ、調査に協力するように求めたところ、長男政明は、忙しいとか、税務署に見せる帳簿はないなどと言つて調査に応じなかつたので、巳むなく、同月二一日に再度臨場する旨告げて辞去した。

同月二一日、長男政明から、同日は都合が悪いから同年八月五に来てくれとの連絡があつたので、井上係官は、同日、原告の事業所に臨場し、長男政明に面接し、調査に対する協力を求め、調査に関する帳簿書類、確定申告の基礎となつた資料の提示を求めたところ、同人は、提示を拒否し、その場に居合わせた民主商工会員とみられる六名と共に、一方的に調査に抗議するのみで、全く調査に応じなかつた。そこで、井上係官は、調査に対する協力を得られなければ反面調査を行わざるを得ない旨を告げて辞去し、同月一九日、反面調査を開始したところ、長男政明から、反面調査をしたことについて抗議の電話があつたので、同年一〇月二四日、再度原告の事業所に臨場したが、長男政明は不在であつた。

井上係官は、同年一一月一二日及び同月二六日、原告の事業所に臨場し、長男政明に対し、重ねて調査に対する協力を求め、帳簿書類等の提示を行うよう説得したが、これを拒否し、全く調査に協力しなかつた。

(二) そこで、被告は、やむなく、原告の取引先に対する反面調査の結果判明した、原告の本件各係争年分の売上金額を基礎に、算出所得金額並びに給料賃金及び外注費を推計により算定し、別紙1ないし3のとおりに本件各更正を行つたものである。

2  本件係各争年分の総所得金額の認定

原告の昭和五二年分ないか昭和五四年分の総所得金額は、それぞれ、(一) 主位的に、昭和五二年分 五六九万九九七六円、昭和五三年分 七二九万八八〇四円、昭和五四年分八四八万五七八〇円、(二) 予備的に昭和五二年分 八四八万二三九七円、昭和五三年分 一〇二八万八九八一円、昭和五四年分 一〇七〇万九九六九円であるから、いずれもその範囲内でなされた本件各更正及びこれを前提とする本件各決定に違法はない。

(一) 主位的主張

(1) 総所得金額

原告の本件各係争年分の総所得金額は、昭和五二年分、五六九万九九七六円、昭和五三年分 七二九万八八〇四円、昭和五四年分 八四八万五七八〇円であり、その算出根拠は次のとおりである。

(イ) 昭和五二年分

営業所得の金額 五一四万二八一六円

農業所得の金額 △一〇万六八八二円

給与所得の金額 六六万四〇四二円

総所得金額 五六九万九九七六円

(ロ) 昭和五三年分

営業所得の金額 六六四万七七八四円

農業所得の金額 △八万九七七二円

給与所得の金額 七四万〇七九二円

総所得金額 七二九万八八〇四円

(ハ) 昭和五四年分

営業所得の金額 七七五万三五〇〇円

農業所得の金額 △三万四五二〇円

給与所得の金額 七六万六八〇〇円

総所得金額 八四八万五七八〇円

(2) 営業所得の金額

原告の本件各係争年分の営業所得金額は、売上金額に、原告が法人成りしたのちの有限会社清和産業(以下「清和産業」という。)の労働費率及び経費率を適用して、推計した次の金額である。

昭和五二年分 五一四万二八一六円

昭和五三年分 六六四万七七八四円

昭和五四年分 七七五万三五〇〇円

右の詳細は別表一のとおりである。

イ 売上金額

原告の本件各係争年分の売上金額は

昭和五二年分 三四〇一万三六七九円

昭和五三年分 三八五二万一一七二円

昭和五四年分 三七九三万九二八三円

で、その明細は別表二のとおりである。

ロ 必要経費

(イ) 仕入れ金額(材料費)

原告の本件各係争年分の仕入金額は、

昭和五二年分 一四一七万三〇四九円

昭和五三年分 一五四五万五六二六円

昭和五四年分 一三六四万〇一一八円

でその明細は別表三のとおりである。

(ロ) 労務費

原告の本件各係争年分の労務費の金額は、前記イの売上金額に清和産業の昭和五六年八月一日から昭和五七年七月三一日までの事業年度(以下「第二期」という。)及び昭和五七年八月一日から昭和五八年七月三一日までの事業年度(以下「第三期」という。)の労務費率(製造売上に占める労務費の割合)の平均値(以下「法人労務費率」という。)を乗じて算定したもので、その金額は、

昭和五二年分 五〇七万八〇三八円

昭和五三年分 五七三万五八〇三円

昭和五四年分 五六四万九一六〇円

であり、その計算は別表六の通りである。

(ハ) 外注費

本件各係争年分の外注費の金額は、前記イの売上金額に清和産業の第二期及び第三期の外注費率(製造売上に占める外注費率の割合)の平均値(以下「法人外注費率」という。)を乗じて算定したもので、その金額は、

昭和五二年分 一八一万四三一六円

昭和五三年分 二〇四万九三二七円

昭和五四年分 二〇一万八三七〇円

であり、その計算は別表六のとおりである。

(ニ) 製造経費

本件各係争年分の製造経費の金額は、前記イの売上金額に清和産業の第二期及び第三期の製造経費率(製造売上に占める製造経費の割合)の平均値(以下「法人製造経費率」という。)を乗じて算定したもので、その金額は、

昭和五二年分 六七万一八四三円

昭和五三年分 七五万八八六八円

昭和五四年分 七四万七四〇四円

であり、その計算は別表六のとおりである。

(ホ) 販売費及び一般管理費

本件各係争年分の販売費及び一般管理費の金額は、前記イの売上金額に清和産業の昭和五五年八月二八日から昭和五六年七月三一日までの事業年度(以下「第一期」という。)及び第二期並びに第三期の販売費及び一般管理費率(総売上に占める販売費及び一般管理費の割合)の平均値(以下「法人販売費及び一般管理費率という。)を乗じて算定したもので、その金額は、

昭和五二年分 三七三万〇九四三円

昭和五三年分 四二一万四二一七円

昭和五四年分 四一五万〇五五八円

であり、その計算は別表六のとおりである。

(ヘ) 建物以外の減価償却費

本件各係争年分の建物以外の減価償却費は、機械設備及び車輛にかかるもので、その金額は、

昭和五二年分 九四万九〇〇五円

昭和五三年分 一三二万〇二七八円

昭和五四年分 一六〇万五六三〇円

であり、その計算は別表七の1ないし3のとおりである。

(ト) 建物減価償却費

本件各係争年分の建物減価償却費はいずれも工場にかかるもので、その金額は、

昭和五二年分 四〇万〇九五〇円

昭和五三年分 四〇万〇九五〇円

昭和五四年分 四〇万〇九五〇円

であり、その計算は別表六のとおりである。

(チ) 利子割引料

本件各係争年分の利子割引料は、いずれも京都信用金庫亀岡支店及び亀岡市農業協同組合に対して支払つたもので、その金額は、

昭和五二年分 一三四万二七一九円

昭和五三年分 一一三万八三一九円

昭和五四年分 一一七万三五九三円

である。

ハ 事業専従者控除額

原告の本件各係争年分の事業専従者控除額は、いずれも八〇万円で、原告が本件係争年分の所得税の確定申告書に記載した額である。

(3) 法人労務費率、同外注費率、同製造経費率、並びに、同販売費及び一般管理費の算定

原告の本件各係争年分の所得金額の計算にあたり、被告が適用している法人労務費率、同外注費率、同製造経費率、並びに、同販売費用及び一般管理費は、清和産業が被告に対して提出した第一期、第二期及び第三期の法人税確定申告書並びに決算報告書に、記載された金額を左記〈1〉ないし〈3〉の調整を行つて個人換算した後(別表四)の金額を基礎として算定したものであり、その明細は別表五のとおりである。

〈1〉 営業外損益及び特別損益は除外したところで、計算する。

〈2〉 製造経費は、地代家賃を除いた経費とする。

〈3〉 販売費及び一般管理費は、次の〈一〉ないし〈五〉の経費を除いた経費とする。

〈一〉 福利厚生費のうち代表者及びその家族従業員分

〈二〉 賃借料

〈三〉 減価償却費

〈四〉 役員報酬

〈五〉 代表者の家族に対する給料手当

なお、個人換算とは、法人について代表者が個人として事業を営んでいるものと仮定して所得金額を算定することである。したがつて、具体的には受取利息、受取配当金、地代家賃収入、譲渡益及び譲渡損のようないわゆる個人換算において事業所得以外の所得に区分されるもの、並びに、損金に算入された雇人費のうち、代表者、その配偶者及びその他の親族(所得税法第五六条に該当するものに限る)の報酬等はないものとして計算している。

(4) 推計の合理性

イ 事業所得の計算は、実額課税をするのが望ましいところであるが、諸種の事情から実額課税ができない場合に課税をしないことは租税負担公平の原則、応能負担の原則等に反するので、そのような場合には推計によつて課税標準を認定し、更正又は決定を行うことが認められている(所得税法一五六条)。

そして、本件において被告は、売上金額、仕入金額、減価償却費及び利子割引料については実額で計算し、労務費、外注費、製造経費並びに販売費及び一般管理費については、一般に合理的な推計方法の一つとして認められている本人比率法による方法を採用し、実額課税により近い金額を算定したものである。

ロ 法人雇人費率、同外注費率、同製造経費率並びに同販売費及び一般管理費率適用の合理性

原告は帆布加工業を営んでいた者であるが、その営業内容は、シートの加工及びシートの製造販売による売上げが主で、しかも、家族従業員が五名(本人を含む)と特異な業態であつたことから、原告に対しては、原告が営む清和産業の第一期、第二期及び第三期における各比率(本人比率)を適用するのが相当である。そして、右本人比率適用の合理性は以下〈一〉、〈二〉に述べるとおりである。

〈一〉 清和産業はシートの製造及び室内装飾工事を営む者であるが、第二期及び第三期の決算報告書については、製造売上げの部と完成工事の部が明瞭に区分されており、しかも、両事業年度ともその製造売上高は本件各係争年分当時とほぼ同じで事業規模は類似している。したがつて、法人労務費率、同外注費率、同製造経費率を適用することは、合理性がある。

〈二〉 法人販売費及び一般管理費の算出は、売上金額に占める販売費および一般管理費の割合で求めるのが一般的であるから、その法人販売費及び一般管理費率を適用することは合理性がある。

しかも、本件においては、法人に組織変更後の営業と比較しているが、一般に個人より法人組織の法が組織対として管理費を初め種々の経費が増大することは当然のことであり、法人販売費及び一般管理率を適用することは原告にとつて有利となつても不利となるものでないのである。

(二) 予備的主張

(1) 原告の本件各係争年分の総所得金額は、昭和五二年分八四八万二三九七円、昭和五三年分 一〇二万八九八一円、昭和五四年分 一〇七〇万九九六九円であり、その算出は根拠は次のとおりである。

昭和五二年分

営業所得の金額 七九二万五二三七円

農場所得の金額 主位的主張と同一

給与所得の金額 主位的主張と同一

総所得金額 八四八万二三九七円

昭和五三年分

営業所得の金額 九六三万七九六一円

農場所得の金額 主位的主張と同一

給与所得の金額 主位的主張と同一

総所得金額 一〇二八万八九八一円

昭和五四年分

営業所得の金額 九九七万七六八九円

農場所得の金額 主位的主張と同一

給与所得の金額 主位的主張と同一

総所得金額 一〇七〇万九九六九円

(2) 営業所得金額

原告本件各係争年分の営業所得の金額は、

昭和五二年分 七九二万五二三七円

昭和五三年分 九六三万七九六一円

昭和五四年分 九九七万七六八九円

で、その計算の明細は、別表一のとおりである。

イ 売上金額

本件各係争年分の売上金額は、

昭和五二年分 三四一〇万三六七九円

昭和五三年分 三八五二万一一七二円

昭和五四年分 三七九三万九二八三円

で、その明細は別表二のとおりである。

ロ 算出所得金額

本件各係争年分の算出所得金額は、

昭和五二年分 一五三三万六四二四円

昭和五三年分 一五九〇万一五三九円

昭和五四年分 一六〇四万八三一六円

で、その計算は別表二のとおりである。

ハ 特別経費

本件各係争年分の特別経費額の金額は

昭和五二年分 六六一万一一八七円

昭和五三年分 五四六万三五七八円

昭和五四年分 五二七万〇六二七円

で、その明細は、別表三のとおりである。

(イ) 建物以外の減価償却費、建物の減価償却費、及び利子割引料の各金額は、主位的主張と同一である。

(ロ) 給料賃金及び外注費

本件各係争年分の給料賃金及び外注費の金額は、前記イの売上金額に後記(4)の同業者労務費率を乗じて算定したもので、その計算は、別表五のとおりである。

ニ 事業専従者控除額

本件各係争年分の事業専従者控除額は、主位的主張と同一である。

(3) 同業者所得率による推計の合理性

イ 同業者の選定方法について

被告は、原告の本件各係争年分の所得金額を推計するに当たり、原告と類似した同業者の所得率(売上金額に占める算出所得金額の割合)を適用したが、右同業者として、原告の事業所の所在地を所轄する園部税務署並びにこれに隣接する福知山、柏原、上京、右京、左京、茨木、吹田及び豊能の各税務署管内の同業者のうちから、本件各係争年分を通じて次の〈一〉ないし〈五〉のすべての基準に該当する者を選定した。

この基準に該当する同業者は、豊能税務署管内の一件だけで、豊能税務署を除く前記各税務署管内には存在しなかつた。

〈一〉 受注先から生地の支給を受けて養生シート、野積用シート、自動車用シート等の縫製受託加工を行うほか、自己においても生地を仕入れて養生シート等の製造販売業を営んでいる個人であること

〈二〉 青色申告書により所得税の確定申告を行つていること

〈三〉 年間を通じて事業を継続して営んでいること

〈四〉 売上金額が一六九〇万円から七六九〇万円までであること

なお、右売上金額の範囲は、被告が訂正前主張した原告の売上金額(昭和五二年分は三三八九万四三六五円、同五三年分は三八四〇万三五七二円、同五四年分は三八二二万七五〇円)を基準として、上限を昭和五三年分の売上金額三八四〇万三五七二円の二〇〇パーセントとし、下限を昭和五二年分の売上金額三三八九万円四三六五円の五〇パーセントとした(一〇万円未満の端数については上限は切り上げ、下限は切り捨てた。)。

〈五〉 本件各係争年分についての不服申立て又は訴訟継続中でないこと

ロ 同業者率の算定

前記イにより選定した同業者の本件各係争年分の所得税青色申告決算書に基づいて、本件各係争年分の所得率を算定した。

その明細は別表八のとおりである。

ハ 基礎資料の正確性

本件同業者は、青色申告者であり、その提出した本件各係争年分の所得税青色申告決算書の金額は正確なものである。

ニ 原告との類似性

原告は、肩書所在地において、受注先から生地の支給を受けて、養生シート、野積用シート、自動車用シート等の受託加工を行うと共に、自らも生地を仕入れてシートの製造販売を行つている者であるが、被告が採用した同業者は、前記イで述べた基準で選定したもので、業種は原告と同一であり、業態及び規模も原告と類似している。

したがつて被告が本件同業者の所得率を適用して原告の本件各係争年分の所得金額を推計したことは合理性を有する。

(4) 同業者労務費の算定

被告が原告の本件各係争年分の給料賃金及び外注費の金額を推計するにあたり適用した同業者労務費率は、以下に述べる方法により算定した。

被告が適用した同業者は、事業専従者が本件各係争年分を通じて一名であるが、原告の場合は、原告と生計を一とする親族、すなわち原告の妻、長男、次男、長男の妻の四名が事業に従事している。

したがつて、原告の本件各係争年分の給料賃金及び外注費の金額を推計するために適用すべき同業者労務費率としては、同業者の本件各係争年分の青色申告決算書に記載された給料賃金、専従者給与額及び外注費の合計額(以下「労務費」という。)の売上金額に対する割合ではなく、原告の親族従業員(四名)に相当する従業員を同業者の従業員から控除し、これら従事員に対する給料賃金相当額の支給がなかつたとした場合の同業者の労務費を算定し、その労務費の売上金額に対する割合を同業者労務率として適用した。

その計算の明細は別表六及び七のとおりである。

第四被告の主張に対する認否及び原告の反論

一  被告の主張に対する認否

被告の主張第三の二の1の事実のうち、被告主張の各年月日に調査がなされこたとは認めるが、井上係官が調査の理由を開示したことは否認する。

同2の(一)(1)の事実のうち、本件各係争年分の農業所得、給与所得の金額は認め、営業所得の金額は否認する。

同(2)の事実のうち、イの売上金額中、別表二の番号15の昭和五三年分、同番号36の昭和五四年分は否認し、その余は認める。ロ中、仕入金額、労務費、外注費、製造経費、販売費及び一般管理費はいずれも否認し、その余の特別経費は認め、ハの事業専従者控除額は認める。

同(4)は争う。

同2の(二)(2)の事実のうち、本件各係争年分の農業所得、給与所得は認め、営業所得は否認する。

同(2)の事実のうち、イの売上金額中、別表二の番号15の昭和五三年分、同番号36の昭和五四年分は認否し、その余は認める。ロ中、算出所得金額は否認し、ハ中、(イ)は認め、(ロ)は否認し、ニは認める。

同(3)の同業者所得率による推計の合理性については争う。

同(4)の同業者労務比率による推定の合理性は争う。

二  原告の反論

1  被告主張第三の二1について

原告は、井上係官に対し調査理由の開示を求めたが、同人は調査の理由を一切開示しなかつたので、帳簿書類等を提示しなかつた。

2  同2について

(一) 被告の主位的主張における推計方法は、次のとおり合理性がない。

(1) 原告は、昭和五五年八月二八日法人成りをして清和産業を設立した。原告は本件各係争年当時シート加工が一〇〇パーセントであつたが、同会社は、従来のシート加工製造部門のみでは利益が充分にあがらなかつたので、法人成りを契機として新しく工事部門を設置し、クロス、カーペツト、クツシヨンフロアー(台所)、カーテン、ブラインド、アコーデオンカーテンの販売並びに取付工事を行うようになつた。清和産業は、第一期においては、右二部門を合体して収支計算を組んでおり、第二期及び第三期においては、右二部門をそれぞれ分けて収支計算を組んでいるが、実態はそれ程区分して営業活動をしているけではないから、売上げも厳密な意味では区分されていないし、経費(一般経費及び特別経費)も相互に流用している。

(2) 被告は、原告の法人成りの経費率を適用しているが、本人比率による推計課税が許されるとしても、法人と個人とは、組織形態、営業形態が異なり、法人成りの率を個人の所得算出のために適用すること自体許されない。まして、本件の場合、清和産業は前記二部門をいわば兼業し、両部門の売上及び経費は実態上区分されていないのであるから、同会社の経費率は単純に適用することは合理性を欠く。

被告は、販売費率及び一般管理費率の算出にあたつて、総売上げ(完成工事売上高と製造売上高)を基準に率を計算しているが、総売上高の中には、原告の個人営業時代にはなかつた完成工事売上高が含まれているのであつて、このような算定自体許されない。

(二) 被告の予備的主張における推計方法について

被告の予備的主張における推計方法は、同業者と原告との類似性がないから、適法でない。

同業者率を適用した所得推計が適法とされるためには、その同業者が原告と業種、営業業態及び営業規模において類似しており、さらに立地条件が類似していることが要件とされている。

ところで、原告はシート加工(受託、製造販売を含む。)が一〇〇パーセントであり、テントの加工は零である。原告がテントを取り扱つたのは、昭和五四年当時テントを仕入れて亀岡市東部文化センターに納品した一八万円のみである。また、原告は受託加工は八〇パーセント、製造販売は二〇パーセントである。受託加工より製造販売の方が利益率が高く、シート加工よりテント加工の方が、単価、時間の点において有利である。さらに、原告の工場は、亀岡の山奥にある。

他方、被告主張の同業者は、大阪府池田市鉢塚一丁目二九九番一三という町の中において、本件各係争年当時、「サツキテント」なる屋号でテント業を営んでいる織田弘治であり、同人は、テントの加工、同取付、同リース、会場設備(テント、いす、テーブルその他の会場に必要な設備)を扱つており、シート加工はほとんど扱つていないし、テント加工でも製造販売がほとんどである。

このような、原告と同業者とは、業種、業態も立地条件も異なつており、両者間に類似性はない。

しかも、推計による所得算出については、本件のようにわずか一件の同業者の率の適用は、実額と近似しない所得が算出される可能性があり、実額と近似しているという担保も全くないのみならず、課税当局の恣意的選択を排除する担保もないから、絶対に認められるべきではない。

第5原告の反論に対する認否及び被告の再反論

一  原告の反論に対する認否

原告の反論(一)、(二)の事実のうち、原告が本件各係争年当時テント加工を行つていなかつたこと、右当時の原告の売上のうち、受託加工は八〇パーセント、製造販売は二〇パーセントであつたことは否認し、その余は争う。

二  被告の再反論

1  経費の実額が把握できない場合に、同業者の平均値または本人比率によつて推計する方法には合理性があるというべきところ、販売費及び一般管理費は、その性質上、総売上(完成工事売上と製造売上)との個別対応を求めることは、不可能であるから、右総売上を基本にその率を計算することは、何ら不当でない。

2  原告は、本件各係争年当時、シート加工以外にテントの加工、テントの製造販売のみならず、テントの取付、テント等のリース、会場設備の設営等を行つていた。

3  清和産業のテントの取付工事については、テントの取付工事の売上は完成工事部門に含まれているところ、被告が推計にあたり採用したものは清和産業の製造部門のみの比率であり、完成工事部門の比率ではないから、法人成り後のテントの取付工事の存在は、被告主張の経費率には何ら影響を及ぼすものではない。

4  清和産業の完成工事部門の売上及び製造部門の売上の各経費の区分については、清和産業の第二期及び第三期の決算書においては、完成工事部門売上と製造部門売上とが明瞭に区分されており、仮に、原告主張のように、右両部門の各売上の各経費が実態上区分されていないとしても、証人藤木政明の証言によれば、(製造)加工の人間と(工事)売上の人間は、本来別であるが、加工をしている人間を取付けにまわす場合があり、その売上は工事の売上に入れているので、加工の売上は減るとしているところ、清和産業の第二期及び第三期の決算書によれば、完成工事部門(内装工事、取付工事)には、労務費の計上はなく、労務費の計上があるのは、製造部門(テント、シートの製造加工)だけであるから、製造部門の労務費には完成工事の売上に対応する労務費をも含んでいることになり、したがつて、被告が製造部門の比率を基に算定した労務費は、実際のテント・シートの製造加工にかかる労務費より過大に算定することになつても、過少な算定になる余地はなく、原告にとつて有利な算定になつていると考えられるから、被告が採用した経費率の合理性を減殺する要素にはなり得ない。

5  被告の採用した経費率の合理性は、原告の法人成りの後の平均経費率が別表1のとおり、清和産業の第一期の経費率を上回つていることからも明らかである。

6  被告が採用した本件各係争年分の平均経費率は、日本標準産業分類上、原告の事業を含まれる「帆布製品製造業」を営む同業者の平均一般経費率に極めて近似していることからも、その合理性は明らかである。

7  原告は、被告の予備的主張に関し、原告と同業者との類似性がない旨主張する。

しかし、原告は井上係官の再三にわたる調査に対し、申告額の根拠を一切明らかにせず、業種、業態についても明らかにしなかつたものであつて、被告は原告の該調査非協力により、その業態の詳細を知り得なかつたものである。

ところで、推計課税は、納税者の税務調査に対する協力の程度如何によつて採用しうる推計方法が左右されるから、推計課税の合理性は、納税者の課税庁に対する自己の申告内容の説明、個別的営業形態等の情報の提供という協力度合いと相関的に判断されるべきものであつて、それはすぐれて相対的なものというべきである。

本件で、被告の採用した推計課税の基礎数値は、原告の所得金額の推計にあたつての合理性を十分担保しており、右の調査非協力者にかかる推計の合理性の相対性の見地からしても、正当の理由もなく調査に非協力な態度で終始した原告が、被告をして原告の業態等の個別的特性を知り得ない状況に追い込みながら、採用同業者と原告の業態の高度な個別的類似性を要求すること自体、信義にもとるものとして許されない。

第六証拠

証拠の関係は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  課税の経緯

請求原因一の事実(本件処分の経緯等)は当事者間に争いがない。

二  調査手続

原告は、本件更正は、調査理由の開示を行わず違法な調査に基づきなされたものであるから、違法である旨主張するので、この点を判断する。

1  被告主張の各年月日に調査が行われたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三二号証、証人井上康之の証言によると、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

被告の部下職員である井上係官は、昭和五五年七月一七日原告の事業所に臨場し、原告及び実質的な事業の主宰者である長男政明に面接し、原告の本件各係争年分の申告所得額の確認調査に来た旨を告げて、調査に協力するよう求めたことろ、長男政明は、忙しいから帰れなどといつて調査に協力しなかつたので、同係官はやむなく、同月二一日に再度臨場する旨告げて辞去した。同係官は、同日、長男政明から同日は都合が悪いとの連絡を受けたので、同年八月五日に臨場する旨同人に告げ、同日原告の事業所に臨場したが、原告とは会えず、応対に出た長男政明に対し、調査に対する協力を求め、本件各係争年分の帳簿書類や原始記録の提示を求めたところ、同人は、本件各係争年分の売上帳、仕入帳、経費帳及び領収書等を保存しているのに拘らず、その提示を拒否し、その場に居合わせた民主商工会員とみられる六名の者と共に、これらの者の立会を認めろとか、調査理由の開示をするようにくり返すのみで、全く調査に応じなかつたため、、井上係官は、被告において必要な調査をせざるをえない旨告げて辞去した。そして、井上係官は、その後反面調査を開始したところ、長男政明から、同調査をしたことにつき抗議の電話があつたので、同年一一月一二日及び同月二六日に再度原告の事業所に臨場し、調査に対する協力や記帳書類等の提示を求めたが、長男政明は、反面調査をしたことにつき抗議するのみで、右提示に応じず、調査に対する協力もしなかつた。そこで、被告はやむなく、原告の取引先に対する反面調査の結果に基づいて、推計により本件各更正を行つた。

2  右認定事実によると、井上係官は、昭和五五年七月一七日の第一回調査期日に一応の調査理由を開示したものであつて、これ以上の具体的、個別的な理由の開示は要求されていないものと解されるし、また、同係官の行つた調査に何ら違法は認められないから、原告主張の、本件各更正の違法理由1は理由がない。

三  推計課税の必要性

前記二の認定事実によれば、原告の本件各係争年分の所得金額については、これを実額で算定するのに必要な帳簿書類ないし原始記録が提示されず、井上係官のした調査についても原告の協力が得られなかつたものであり、本件訴訟においても原告の所得、より正確には営業所得算出上の経費を直接認定する証拠は存しないから、被告が原告の取引先等の反面調査によつて把握した結果を基礎に、原告の本件各係争年分の所得金額を推計の方法により算定することに違法はない。

四  所得の算定

主位的主張について判断する。

1  原告の本件各係争年分の農業所得、給与所得の金額が、

昭和五二年分

農業所得の金額 △一〇万六八八二円

給与所得の金額 六六万四〇四二円

昭和五三年分

農業所得の金額 △八万九七七二円

給与所得の金額 七四万〇九七二円

昭和五二年分

農業所得の金額 △三万四五二〇円

給与所得の金額 七六万六八〇〇円

であることは当事者間に争いがない。

2  営業所得

(一)  売上金額

被告主張の、原告の本件各係争年分の売上金額の明細が、別表二の番号15の昭和五三年分、36の昭和五四年分をのぞき、同表記載のとおりであることは当事者間でに争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第五号証によれば、原告の昭和五三年中における有限会社田中専に対する売上金額は、同表の番号15に記載のとおりであり、証人藤木政明の証言及び弁論の全趣旨によると、原告の昭和五四年中における亀岡市東部文化センターに対する売上金額は、同表の番号36に記載のとおりであることが、それぞれ認められ、そうすると、原告の本件各係争年分の売上金額は、別表一の1欄記載のとおりとなる。

(二)  必要経費

イ 仕入れ金額

弁論の全趣旨により成立の真正を認める乙第一九ないし第二九号証によれば、原告の本件各係争年分の仕入金額は、別表一の2記載のとおりであることが認められる。

ロ 減価償却費

原告の本件各係争年分の建物以外及び建物の各減価償却費が、それぞれ別表一の7及び8(その計算の明細は別表四のとおり)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

ハ 利子割引料

原告の本件各係争年分の利子割引料が、別表一の9記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

ニ 労務費、外注費、製造経費、販売費及び一般管理費

一定の事業を営む個人の経費を実額によつて把握することができない場合において、、当該個人と営業実態、規模において類似する、当該個人の法人成りした法人の、係争年度において近接する時期についての、法人税決算書から個人換算した経費の比率から推計することは、特別の事情のない限り合理性があるというべきである。

そこで本件についてこれを検討する。

(イ) 成立に争いのない乙第一五ないし第一七号証、前掲乙第三二号証、弁論の全趣旨により成立の真正をみとめる同第三三ないし第三八号証、証人藤木政明の証言(後記採用しない部分をのぞく。)によれば、原告は、本件各係争年当時営業内容が、シート、テントの加工及び製造販売、テントの取付工事、会場設備設営等であつて、家族従業員が本人を含む五名という業態であるが、原告が法人成りしたのちの清和産業は、その営業内容が、テント、シートの加工及び製造販売(以下「製造売上部門」という。)並びにテント取付、会場設備設営、室内装飾工事(以下「完成工事部門」という。)の二部門であつた、原告の個人営業当時の原告を含む家族従業員五名が営業に従事しており、事業所も原告の個人経営当時のそれと同じであること、清和産業は、第二期及び第三期の決算報告書については、製造売上部門と完成工事部門が明瞭に区分されており、しかも、両事業年度ともその製造売上高は、原告の本件各係争年分当時のそれとほぼおなじであつて、事業規模も類似していることが認められ(右認定に反する証人藤木政明の証言は、後記のとおり採用できない。)、右事実及び右第一ないし第三期と本件各係争年度が近接していることに徴すれば、前記(イ)の法人労務経費率、法人外注費率、法人製造経費率を適用して、原告の本件各係争年分の労務費、外注費、製造費を推計することには、合理性があるというべきである。

また、販売費及び一般管理費については、その性質上、清和産業の前記部門毎に清和産業の総売上(完成工事と製造売上)との個別対応性を求めることは困難であるから、右総売上を基本にその率を計算するのが相当である。

(ロ) 前掲乙第一五ないし第一八号証によると、清和産業の第一期、第二期及び 第三期の法人決算額は、別表四の右各期法人額欄記載のとおりであり、右各金額につき、左記ないしの調整を行つて個人換算(その法人について、代表者が個人として事業を営んでいるものと仮定して、所得税法上の事業所得金額を算定すること。したがつて、具体的には、受取利息、受取配当金、地代家賃収入、譲渡益及び譲渡損のようないわゆる個人経営の事業において所得税法上、事業所得以外の所得に区分されるもの、並びに損金に算入された労務費のうち、代表者、その配偶者及びその他の親族の報酬等で所得税法五六条に該当するものはないものとして計算すること。)した後の金額は、同表の各個人換算額記載のとおりとなる。

〈1〉 営業外損益及び特別損益は除外したところで計算する。

〈2〉 製造経費は地代家賃を除いた経費とする。

〈3〉 販売費及び一般管理費は、福利厚生費のうち代表者及びその家族従業員分、賃借料、減価償却費、役員報酬、代表者の家族に対する給料手当を除いた経費とする。

以上がみとめられる。

そこで右個人換算額を基礎として、清和産業の第二期及び第三期の労務費率(製造売上に占める労務費の割合の平均値、以下「法人労務費」という。)、同第二期及び第三期の外注費率(製造販売上に占める外注費の割合の平均値、以下「法人外注費」という。)、同第二期及び第三期の製造経費率(製造上に占める製造経費の割合の平均値、以下法人販売費及び一般管理費率」という。)を算出すると、別表五記載のとおりとなり、原告の本件各係争年分の売上金額に、それぞれ、右法人労務費率、同外注費率、同製造経費田率、同販売費及び一般管理費率を乗じて原告の本件各係争年分の労務費、外注費、製造経費、販売費及び一般管理費を算定すると、右各経費の金額は別表六の2ないし5の記載のとおりとなる。

(ハ) 被告主張の平均経費率の適用の合理性について、原告は、〈1〉 原告は本件各係争年当時、一〇〇パーセント近くシートの受託加工及び製造販売をしていたのに対し、清和産業は、新たにテントの取付工事、内装工事等完成工事部門を設けてその仕事を始めたもので、いわゆる兼業をしている者である旨〈2〉 清和産業の製造売上部門及び完成工事部門の各売上は、実態上区分されておらず、経費も、相互に流用されている旨、主張し、また、〈3〉 原告は、本件各係争年当時、テント加工は昭和五四年に一件(一八万円)の売上があつたのみである旨主張し、かつ、証人藤木政明の証言によると、清和産業の製造売上部門ではテント加工が主であることは認められる。

しかし、右証人の証言によれば、清和産業でテント取付工事は完成工事部門に含まれていることがみとめられるところ、被告が前記経費の推計にあたり採用した率は、清和産業の製造売上部門の率であつた、完成工事部門の率ではないから、清和産業が完成工事部門を兼業しているにしても、これが被告主張経費適用の合理性を動かすものとはいえない。

また、前掲乙第一六、第一七号証によれば、清和産業の第二期及び第三期の決算報告書においては、完成工事部門と、製造売上部門とで売上、外注費及び製造経費等の原価を明瞭に区分して決算した決算報告書を作成していると認められることに徴すると、右二部門で右売上等が実態上も区分されていると認めるのが相当である(この点に関する証人藤木政明の供述は、あいまいで採用できない。)

次に、清和産業の前記二部門の経費が実態上区分されていないとしても、労務費についてみれば、前掲乙第一六、第一七号証によれば、清和産業の第二期、第三期の決算報告書には、完成工事部門につき労務費の計上はされておらず、労務費の計上は製造売上部門のみになされていることが認められるから、製造売上部門の労務費は完成工事部門の売上に対応する労務費をも含んでいることになり、したがつて、被告が製造売上部門の率を基に労務費を算定していることは、原告の労務費を過大に算定することになつても、過少に算定することにはならないから、前記推計の合理性を減殺するものとはいえないし、外注費、製造経費については、前記二部門間で流用していることを窺わせるに足る資料はない。

更に、前掲乙第三二ないし第三八号証、証人藤木政明の証言(但し後記採用しない部分をのぞく。)によれば、原告は、シートだけでなくテントの加工も相当程度行つていたほか、本件各係争年当時、仕入先であるテン工業株式会社、細川産業株式会社、ツダ株式会社から、テントの製造販売に使用する原反を仕入れたり、テン工業株式会社から会場設営に使用する紅白幕、アサギ幕、除幕式用幕等を仕入れたり、ツダ株式会社からテントの商品販売用あるいはリース用と思われるパワーテント本体、骨、及びキヤンプテント、キヤバナテント等を仕入れていることが認められ、この事実によると、原告は本件各係争年当時シートの加工及びテントの加工を行つていたほか、テントの製造販売、テント取付、同リース、会場設備の設営等も行つていたと推定される(証人藤木政明の証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠に対比して採用できない。)したがつて、原告の本件各係争年当時の営業内容は、一〇〇パーセント近くがシート加工及び製造販売であり、この点でも清和産業とは業態に類似性がないとの趣旨の主張は採用できない。

(ニ) そうすると、原告の本件各係争年分の前記労務費ほかの経費を被告主張の率により推計することには合理性があるというべきである。

(三)  事業専従者控除

原告の本件各係争年分の事業専従者控除額が、いずれも八〇万円であることは当事者間に争いがない。

(四)  そこで、本件各係争年分とも、前記(1)の売上金額から前記(2)の必要経費を控除し、更に、前記(3)の事業専従者控除額を控除すると、原告の本件各係争年分の営業所得金額は、別表一の11掲載のとおり、

昭和五二年分 五一四万二八一六円

昭和五三年分 六六四万七七八四円

昭和五四年分 七七五万三五〇〇円

となる。

3  そうすると右営業所得に前記1記載の原告の本件各係争年分の農業所得及び給与所得を加えると、原告の本件各係争年分の総所得金額は、被告主張のとおり、

昭和五二年分 五六九万九九七六円

昭和五三年分 七二九万八八〇四円

昭和五四年分 八四八万五七八〇円

となる。

五  以上によれば、本件各更正は、適法な調査に基づきなされ、また、原告の所得の範囲内でなされたものであるから、適法であり、したがつて、また本件各更正を前提になされた本件各決定も適法である。

よつて、原告の本件各請求は、いずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政法第七条、民訴法八九条を適用した、主文のとおり版権する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 武田多喜子 裁判官 長久保尚善)

別紙1 原告の昭和52年分所得税の課税関係一欄表

〈省略〉

別紙2 原告の昭和53年分所得税の課税関係一欄表

〈省略〉

別紙3 原告の昭和54年分所得税の課税関係一欄表

〈省略〉

別表一 係争各年分の事業所得金額の計算

〈省略〉

別表二 売上金額の明細

〈省略〉

〈省略〉

注1……被告主張額を変更した

別表三 仕入金額の明細表

〈省略〉

別表四 個人換算表(有限会社 清和産業)

〈省略〉

別表五 法人労務費率等の計算

〈省略〉

別表六 係争各年分の労務費、外注費、製造経費、販売費及び一般管理費の金額の計算

〈省略〉

別表七の1 減価償却明細表

(社名) 消和産業

定率法 自 昭和52年1月1日

定額法 自 昭和52年12月31日

〈省略〉

別表七の2 減価償却明細表

(社名) 消和産業

定率法 自 昭和53年1月1日

定額法 自 昭和53年12月31日

〈省略〉

別表七の3 減価償却明細表

(社名) 消和産業

定率法 自 昭和54年1月1日

定額法 自 昭和54年12月31日

〈省略〉

別表一

係争各年分の営業所得金額の計算

〈省略〉

別表二

係争各年分の算出所得金額の計算

〈省略〉

別表三

特別経費の明細

〈省略〉

別表四

建物減価償却費の計算

〈省略〉

別表五

係争各年分の労務費(給料賃金及び外注費)の計算

〈省略〉

別表六

同業者労務費率の算定について

〈省略〉

別表七 労務費から控除

労務費から控除される金額の算定について

〈省略〉

※注 給料賃金のうち、その他計上額については、従事月数の記載が同業者青色申告決算書にないので、一人当り平均給与賃金の算定にあたっては除外した。

別表八

同業者率一欄表

〈省略〉

※注 所得率の算定にあたっては、小数点5位以下は切り捨てた。

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